登山記録 南アルプス(北部) 甲信越

北岳(2005年4月29日-5月1日)

日程

2005年4月29日-5月1日

行程

1日目:
夜叉神峠-鷲ノ住山-池山小屋-城峰付近(テント泊)
2日目:
城峰付近-ボーコン沢ノ頭-八本歯ノ頭-北岳-八本歯ノ頭-ボーコン沢ノ頭-城峰付近(テント泊)
3日目:
城峰付近-池山小屋-奈良田

1日目の記録

01:10 中央線竜王駅

中央線の電気系統が故障してしまったらしく、1時間遅れの深夜1時に竜王駅に到着。明日の朝5時にタクシーに迎えに来てもらうよう電話をかけて、あとは仮眠するだけだ。朝までベンチで横になっていようかと思っていたのだが、優しい駅員さんが、「電気を付けておいてあげるよ、あと外から人が入ってこないように入り口は中から鍵をかけていいからね」と言ってくれたので、仮眠どころか改札前でぐっすり寝る事が出来た。優しい駅員さんに感謝である。

05:41 夜叉神峠

約束通り5時にタクシーがやって来て、40分程で夜叉神峠に到着。タクシー代は7千円と甲府から乗るより千円だけ安かった。駐車場はかなりの車が停まっていたが、どの車も鳳凰山の登山口側に停まっており、広河原へ向かうゲート側はガラガラであった。「さて行くか!」と気合を入れてゲートに進むと、後ろから若者が走ってやって来て、「気を付けて行って来て下さい!」と積雪期の南アルプス登山の注意点が詳細に書かれたビラを渡して去っていった。ビラを見ると南アルプスでの遭難防止に向けた活動をしている「大久保基金の会」と記載されており、ありがたく内容をよく読んで進む。

05:48 夜叉神トンネル

今回の旅で一番の恐怖は、遭難でも滑落でもなく、このトンネル通過である。僕は一人で心霊番組を見られない程臆病者であり、このトンネル通過のために気を紛らわそうとウォークマンまで持って来ている程なのだ。だが運の良い事に関西からやって来た単独行の男性と一緒に進める事となったので本当に助かった。トンネル内は薄気味悪く、天井から水が落ちてきて背中に入って何度もビクビクしたりしていたので、これが一人だったら恐らく恐怖で登山どころの話ではなかっただろうと思ってしまった。

06:44 南アルプス林道から鷲ノ住山に入る

関西から来た男性は残雪期の北岳はこれで3回目だという。そして過去の2回は僕がこれから進むルートで失敗に終わっているという。それなのに行き先は広河原・白根御池経由で北岳である。ここは地図で見てもわかるが、草すべり付近が急傾斜で雪崩の巣であり、過去に小屋もろとも雪崩でやられた事もある位の危険地帯である事は下調べ済みだ。それを知らない男性にその旨を伝えたがやはり考えは変わらないらしく、ここで別れる事となり男性は広河原に向かって行った。男性の無事を祈り、僕も人の心配をしていられないので気を引き締めて先に進む。

06:53 鷲ノ住山

道路から鷲ノ住山への登山道に入るとあっという間に山頂に到着。タクシーの運転手さんが昔はケーブルを使っていたような事を言っていたので、昔の名残だろうか?そのような跡が残っていた。

08:20 野呂川吊橋

鷲ノ住山の下りでは道に迷ってしまった。右に進んでいかなければならないところを、何を血迷ったのか左に進んでしまい、着いた先はそれはもう見事な断崖であり、その断崖を見てやっと道間違いに気が付いた。迷ったら戻るのが鉄則である。来た道を戻ると男女ペアがおり、「あっちですよね」と言われたので、経験者は語ると言わんばかりに「はい」と素直に答えた。せっかく早く起きて来たのに、これで30分もタイムロスしてしまった。鷲ノ住山を下りきると、無人監視をしている発電所と吊橋が見え始め、揺れる吊橋を渡って、先に進む。

09:13 義盛新道登山口

吊橋から登山口までの間はトンネルがいくつもあり、しかも夜叉神トンネルと違って照明が一切無いのだが、鷲ノ住山で出会った男女ペアと一緒に歩いて行けたので、恐怖を感じる事は無くトンネルを通過する事が出来た。

義盛新道は倒木が多い

苔むした木々が倒れに倒れまくった急傾斜の登山道をヒーヒー言いながら登る。

12:37 池山小屋が見えてきた

登山口から3時間弱登ると平坦地が現れ、その先に池山小屋が見えてきた。正直地図タイムで行けるだろうとタカをくくっていたのだが、タイムオーバーである。積雪期にここを登る人は超人だ。義盛新道恐るべし 。

13:20 池山小屋を出発

池山小屋に到着した時にはもうバテバテで倒れ込むように小屋内に入った。正直僕はもう疲れており、この小屋に泊まろうかとも思ったが、男女ペアが先に向かったので、自分ももう少し頑張ってみようと思い先に進む事にした。

14:28 城峰手前の急斜面を登る

池山小屋から先の樹林帯は残雪がたっぷりである。男女ペアのトレースを泥棒して何とか進めたが、一人だと池山小屋に引き返して後続を待ったかもしれない。所詮僕程度の単独行では人の力を借りないと何も出来ないのが悲しいところだ。城峰手前の急斜面はこれまた残雪が多く、ストックが無いと雪に埋もれた足を取り出せない程である。ピッケルしか持ってきていない僕は何度も雪に足を取られ、もがいてもがいてやっとの事で尾根上に辿り着いた。本当に男女ペアに感謝である。

15:17 城峰付近

「どうせテントを張るなら展望の良い所がいいよねー」と、男女ペアと一緒に先に進むが、先に進んでも展望は一向に良くならない。逆に平坦地が少なくなったきたので、男女ペアは目を付けていた元の場所に引き換えしていった。僕は疲れて戻る事すら億劫なので、城峰付近の小スペースにテントを張り、テントに倒れ込んで昼寝した。

15:18 城峰付近より鳳凰山を望む

城峰付近からは鳳凰山を望む事が出来た。駐車場にあれだけ車が停まっていたのだから、相当数が鳳凰山に挑み、今頃は大展望を望んでいる事だろう。その反面北岳に挑んでいるのはごく僅かである。というか、僕と男女ペアそして白根御池経由で山頂に向かっている関西の男性の4人しか挑んでいない。これほど人がいないとは大誤算だ。散歩がてら明日の道を確認しに行ったが、雪道にはトレースが無く、本当に明日北岳に立てるのか不安になってしまい、「あー、もう思うようになれ!」と疲れていたので、18時には寝てしまった。

2日目の記録

05:30 城峰を出発

疲れていて昨日は爆睡だった。でもいくら早く寝ても朝は眠い。朝4時半になると日が出てきて明るくなり、眠い目をこすりながら外に出てみると、木々の合間から真っ白な神々しい間ノ岳が見えており、興奮して身支度を整え出発だ。

06:13 プチラッセル

積雪期に比べると、雪の量は大した事は無いのだろうが、トレースが無いというのは、精神的に辛いものがある。もしかして男女ペアはもう先に進んでいて「今日もラッセル泥棒出来るかなー」と期待していたのだが、目の前にトレースは無く、本日の先陣は僕であるという現実を目の前にしてアイゼンを取り付けて覚悟して先に進む。

池山吊尾根のパノラマ写真を見る

06:55 登山道より富士山を望む

やはり富士山は良い。僕には富士山が見えるだけで、体の疲れを吹き飛ばしてくれるだけの効果がある。歩いて疲れて何も見えないんじゃ山に登る意味は無いもんね。とにかく、今日は晴れでよかったよかった。

07:56 雷鳥

八本歯ノ頭付近の道を歩いていると、目の前に雷鳥のつがいがおり、お尻をフリフリしながら歩いていた。初めて冬毛の雷鳥を見られたので、ラッキーである。

08:00 ボーコン沢ノ頭

出ました、北岳。北岳を望むのはこれで3度目である。家からも近いし登り応えはあるし、山頂からの展望は素晴らしいと聞くし(過去2回はガスで何も望めなかったのだ。)、これからは僕の好きな山ベスト5に入る山になるだろう。

ボーコン沢ノ頭のパノラマ写真を見る

09:00~09:20 八本歯ノコル付近の痩せ尾根を通過する

トレースの無い八本歯ノコル付近の痩せ尾根を緊張しながら通過する。最初は足をどこに置いていいものやら分からず緊張しまくりだったが、慣れれば大した事はなかった。自分を信じて進むのみである。こういった危険地帯は正直一人のほうが気が楽だ。こんな場所では他人の事など心配する余裕は無く、自分だけで精一杯なのだ。

10:15 北岳直下で雪解け水確保

このルートは水との戦いである。今回は4リットルの水を持ってきているが、僕は水分補給が激しいので2日しかもたない計算だ。なのにこのルートときたら水場は池山小屋付近の一箇所のみ。しかも地図を見ると本当にあるのかどうか分からないが「往復1時間」と書いてあり、かなりきつい水場だ。そんなヘビーな水場に水を汲みに行くわけもなく、残雪を溶かして水を作る事を覚悟していたのだが、山頂直下の残雪を見て写真の通り良いアイデアが思いついた。これで山頂から戻る頃にはポリタンに水がたっぷりだ。帰りに回収する際に場所を特定しやすいように、ピッケルを目印に残したまま山頂に向かう。

10:26 北岳山頂と北岳山荘の分岐点

あと少しで山頂。この付近は夏道そのものである。アイゼンが邪魔で仕方がないが、山頂部には雪があるので我慢してアイゼンを履いたまま山頂を目指す。

11:00 北岳山頂

山頂への巻き道は雪がびっしりで雪崩が怖くて歩く気がしなかったので、尾根伝いに山頂を目指す。ついに3度目の正直で念願の北岳山頂からの展望を望むと、富士山は望めなかったものの間ノ岳・農鳥岳・塩見岳・仙丈岳・甲斐駒ヶ岳・鳳凰山と素晴らしい展望が続いていた。過去2回はガスで何も望めなかったので、この展望を見た時は感動もひとしおだ。これだから山は止められない。これだから次もまた山に登りたくなるのだ。暫くすると男女ペアも山頂に到着し、3人で山頂からの展望を堪能した。

北岳のパノラマ写真を見る1北岳のパノラマ写真を見る2

北岳のパノラマ写真を見る3

12:40 下山する

少し雲も湧いてきたので、視界を失う前にさっさと下山する事にした。それにしても惜しい。当初は間ノ岳・農鳥岳を縦走する予定であり、天候も悪くないこの好条件に縦走できないとは本当に残念だ。次回は積雪期に来るかどうか分からないが、もし来るとしたら今度は初日にもう少し距離を稼いで間ノ岳・農鳥岳を越えたいものだ。

ちなみに仕掛けておいたポリタンであるが、ポリタンの中を見ると、雪渓の透明な美味しい水ではなく、土の色・味がするジャリジャリした水でとても飲めたものではなかった。設置した時点では綺麗な水だったのだが、どうやら日が出てきて雪解けが早まり土もろとも溶け出してしまったようだ。後でテントに戻って煮沸して布で濾過して飲んでみるも不味さは変わらず、悔しいので汚れたアイゼンの掃除用の水として使う事になってしまった・・・。

また、下山の際にまたも難関の八本歯のコル付近を通過する事になるのだが、昼を過ぎて雪が腐ってしまって非常に歩きにくい。一歩踏み込むたびにズズズ・・・と雪が崩れ始め、足を取られて思い切り1回転して転んでしまったが、雪が谷底を転がり落ちていくシーンを目にして正直かなり怖かった。腐った雪にはピッケルは歯が立たないし、この時期の北岳にはピッケルよりもストックのほうが余程役に立つような気がした。

15:40 テントに帰還

八本歯ノ頭以外はずっと下りなので、疲れる事もなく無事我が家のテントに帰還。あとは明日麓に下りて帰るだけだ。1時間近くかけて杉の枝・葉が散らばる残雪をコッヘルで溶かして布で濾過し水を作成。その後は木々の合間から見える間ノ岳と鳳凰山を眺めながらぼーっとしたり、お茶するなどして時間を潰すと夜となり、山頂から見た景色を思い浮かべながらぐっすりと眠りについた。

3日目の記録

06:19 城峰出発

2日間お世話になったこの城峰付近のスペースともお別れである。冬山はどこでテントを張っても良いという暗黙のルールに甘えてテントを張ってしまったが、やはり何だか後ろめたいものがある。でもやってしまう。ごめんなさい。

06:56 池山小屋

登りでは辛かった城峰までの急斜面も何とか無事に下り終え、あっという間に池山小屋に到着。中を見ると、今朝5時~6時の間に僕のテント前を通り過ぎて行った登山者達のザックやらが置かれており、「頑張れ~」と僕も下山する。

池山小屋のパノラマ写真を見る

08:16 義盛新道登山口

これまた登りでは辛かった急斜面を下っていると、前に男女ペアを発見。この男女ペアの協力により今回の登頂は成功し、一言挨拶して帰りたかったので会えてよかった。男女ペアにお礼をして、スズタケの煩い登山道を抜けると無事登山口に到着。さて、これからが問題である。鷲ノ住山を登って夜叉神峠に行くか、車道を歩いて奈良田まで歩くか二通りあるのだが、前者は疲れた体に標高差400mの登りが待ち受け、後者は道はなだらかだが3時間の車道歩きが続く。とりあえずこの時点ではどうするか決められなかったので後で考える事にした。

08:22 沢水で水浴び

登山口から少し行くと沢水をホースで引いている箇所があり、冷たい水で顔や髪を洗ってリフレッシュ。水はガブ飲みしたが腹を壊さなかったので大丈夫だろう。(地図には水場マークの記載は無し、飲むのは自己責任でお願いします。)

08:52 トンネルを抜ける

またも明かりの無いトンネルを越えねばならず、怖いので男女ペアを待ってみるも中々来ない。仕方がないので、ウォークマンのイヤホンを耳に取り付け、大音量で音楽を聴きながら我慢してトンネルを通過する。このトンネルは一人で歩いたら絶対に後ろから得体の知れぬ声がするに違いない。そして振り向くと落武者が・・・。トンネル内の写真を撮って怖さを表現したかったのだが、心霊写真が出来上がるとそれもまた後で怖いので撮影は断念した。

09:16 鷲ノ住山を望む

鷲ノ住山を超えるか、3時間の車道歩きをするか悩んでいたが、恐怖でそんなもの忘れて進んでいたため、いつの間にか吊橋のある発電所前を通り過ぎてしまい、今更戻るのも面倒なので結果的に3時間の車道歩きをする事となった。まぁ奈良田には温泉もあるし白旗史郎氏の山岳写真館もあるし、それもまた良いだろう。

10:17 滝

殆ど木々に隠れて見えないのだが、車道沿いには幾つか滝があり、辛い車道歩きの気分を紛らわせてくれる。

11:28 奈良田第一発電所

もう二度とこの車道を歩く事は無いだろう。地図に記載のトンネルの数は13箇所であるが、地図に記載されていないトンネルもあり、そして全トンネルに明かりが無いので恐怖の連続だったのだ。ストレートなトンネルの場合は遠い先の出口に明かりがあるのでまだ気は楽だが、カーブのトンネルもあり、先に光は見えず一切の光が無いためにもう泣きそうになってしまった。ヘッドライトとウォークマンが無ければ失神していたに違いない。最後のトンネルはゲートが封鎖されいるため、ゲートを乗り越えて無事全トンネル通過完了。 ※トンネルのゲートは現在はパワーアップされてこんな感じになっていますのでご注意ください。

11:48 奈良田温泉に到着

最後のトンネルから20分程歩くと奈良田温泉に到着。

奈良田の里温泉

横浜から来たライダーのおじさんと温泉に行く道で出会う。話を聞くと僕と同じ北海道出身であり、そして過去に凄い山歴を持ったおじさんであったので、意気投合して一緒に温泉+食事をする。

白籏史朗山岳写真記念館

自分で人を感動させられるだけの写真が撮れないので、白旗史郎大先生の写真を見て勉強でもしようと入ってみる。(500円)この記念館は温泉のすぐ隣にあるので、山岳写真が好きな人は是非ともお勧めしたい。とにかく言葉で表せない位素晴らしい写真の数々だ。この大先生と同じような感性が僕に少しでもあれば、良い構図を見つけられるのに・・・。

奈良田バス停

温泉を出て少し下ると奈良田バス停だ。のどかな田舎の風景を眺めながら身延駅に向かい、身延駅からローカル線で甲府に向かい帰路についた。

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